どうも @hatuyuki4です。今年に入ってなぜか山登りにはまっています。山はいいぞ。
最近はモバイルアプリの開発以外に、プロダクトマネジメント的な仕事もしています。今回はロコガイドで実際に開発で行ったプレトタイピングという試みと、その実例について紹介していきます。
プレトタイピングとは?
プレトタイピングとはGoogle×スタンフォード NO FLOP! 失敗できない人の失敗しない技術にて紹介されている、著者のアルベルト・サヴォイアさんが作った造語です。アルベルトさんは元Google社員で、様々な新しいプロジェクトに携わっていました。そしてその開発の経験から、著書内で新しいアイデアの90%は失敗すると書かれています。プレトタイピングは、この新しい試みに対して大きな失敗をしないための開発アプローチになります。
失敗の法則
プロジェクトの失敗を分析したところ、失敗には法則があると記載されています。その法則とは以下のようなものです。
失敗(Failure)の原因は、市場参入(Launch)か機能(Operations)、またはコンセプト(Premise)である。
表題のNO FLOP
は、こちらの頭文字から来ています。市場参入(Launch)はマーケティングによる必要な認知が確保できなかったことによる失敗で、機能(Operations)はユーザが求める最低限の機能や品質を満たせていなかった時に発生する失敗です。
しかしこちらの失敗の法則の中で、最も重要なものはコンセプト(Premise)の失敗です。これは、そもそもアイデアの前提が間違っていて、どんなに機能を充実させたとしても、人々の興味を惹きつけないようなアイデアです。失敗の法則の中でも特に起こる可能性が大きく、追加の宣伝や機能開発を行っても挽回しづらいので、プロジェクトがドツボにハマりやすい危険な状態です。
アイデアはそのコンセプトの正しさによりライトイットとロングイットに分けられます。
ライトイットとロングイット
ライトイット(The Rigth It)とはアイデアのコンセプトが正しく、適切に作れば市場に受け入れられるアイデアのことをいいます。逆に ロングイット(The Wrong It)は、どんなにきちんと作ったとしても、市場で受け入れられない間違ったアイデアのことを指しています。
ロングイットはアンケートやインタビュー、綿密な市場調査をしても発生してしまうことがあります。アンケートや市場調査はあくまで意見
であって、実際のユーザが行動を起こしたことにより得られたデータ
ではありません。そのためアイデアがライトイットであるか判断するには、現実の世界でテストを繰り返して実際のユーザの行動から判断する必要があります。
そして素早くアイデアがライトイットであるか検証するのに効果的なのが、プレトタイピングという手法です。
プレトタイプ
プレトタイピングはPretend(~○○のふりをする) と Pre(~の前に) を組み合わせた造語です。つまりプレトタイピングは、実際にものを作る前に実装されているフリをしてアイデアが受け入れられるか検証することをさします。
プロトタイプという言葉がカバーする範囲は非常に大きいです。輪ゴムとクリップで作った簡易なモデルから、宇宙ロケット試作機のような数年がかりのプロジェクトもプロトタイプと呼んだりします。また、試作機における試したい
事柄も様々です。
プレトタイピングは、アイデアがそもそも製品化すべきかどうかを低コストで検証するという、限られた目的にのみ利用します。プレトタイピングという新しい言葉を使うことにより、チーム内で何の検証をどのように行うかの認識が揃いやすくなります。
プレトタイピング実践事例
ここから、トクバイで実際に行ったプレトタイピングの事例を紹介します。トクバイはロコガイドが開発している、近所のスーパーやドラッグストアのチラシや特売情報を閲覧できる、買い物情報アプリです。そのアプリでチラシ検索
という新機能の実験をしました。
こちらはチラシの中身を解析して、欲しい商品の最安値をチラシの中から検索できる機能です。チラシの解析には機械学習などを利用して、画像から商品情報を抜き出します。現時点である程度の精度でチラシの解析はできているのですが、精度を上げるにはさらなる技術投資が必要になります。
もし長い時間とコストをかけて技術投資した結果、実際にはユーザニーズがなくて機能が使われなかったら悲惨すぎます。そのため、この機能に対するプレトタイピングの実施しました。
実装されているフリをする
今回のチラシ検索のテストを行うにあたって、以下のような段取りでプレトタイピングを行いました。
- 対象地域を選択する
- 対象地域に投稿されているチラシを、目視で確認する
- チラシの情報をシートに手動で入力する
- 人力で解析したシートをCSVに書き出し、それを利用して商品を検索する
- 検索結果の一覧をリストで表示する
まさに人力でチラシを解析することで、機械学習による解析が導入されているフリを行いました。人力によるチラシの解析は1枚15分程度の時間がかかりますが、対象地域をしぼれば実現できなくありません。 こちらは メカニカルターク(機械じかけのトルコ人)型と呼ばれるプレトタイピング手法になります。機能の一部を人の手で代用することにより、技術導入のコストを削減して、アイデアの検証を素早く行うというものです。対象とする技術が高価だったり、複雑で導入に時間がかかる場合などに有効な手法になります。
プレトタイピングのコツ
プレトタイピングを実施するには、いくつかコツがあります。今回はその中の一部を紹介します。
YODを集める
データには他人が集計してまとめたデータODP(Other Pepoles Data)と自身で収集したデータYOD(Your Own Data)があります。ODPはネット上を検索すれば比較的簡単にデータが得られますが、これを意思決定に利用するのは危険です。ODPはどのような精度で集計されたのかわかりませんし、結果にその人の意思が紛れ込んでいるかもしれません。ODPを参考にするよりも、YODを自ら集めに行ったほうが価値ある情報を得られる可能性が高くなります。
超ズームイン
プレトタイピングはスピーディにアイデアの検証するのが目的です。そのため検証するエリアや時間などを、ズームインするように絞り込むのが重要だと述べています。
例えば今回行ったチラシ検索では、対象エリアを全国で行おうとするといくら人手があっても人力解析が間に合いません。そのため、今回は人力での解析が可能で、ユーザ数をある程度確保できるラインまで対象エリアを絞り込み、その地域のみでテストを実施しました。
検証に時間がかかってしまうのも、サンプル数が少なくて検証の判定ができなくなるのも、どちらもプレトタイピングの目的を達成できなくなってしまいます。そのため、ちょうどいい塩梅の範囲まで対象エリアを絞り込むのが重要になります。
xyz仮説
アイデアに対する仮説を立てても、漠然と定義しているだけでは検証にブレが生じてしまう危険性があります。例えばチラシ検索を実装したら多くのユーザが気に入って利用していくれる
という仮説を立てたとします。その場合多く
とはどれくらいのユーザのことを指しているのか、利用
は検索の実行なのか、チラシの閲覧なのか、人によって解釈が異なってしまいます。
そのため、事前に少なくともX%のYはZを行うという指標を立てておきます。これはチーム内の暗黙の了解やあいまいな思考を排除し、誤解を減らすことにも役立ちます。
まとめ
今回はメカニカルタークという手法を用いてプレトタイピングを行いましたが、他にもさまざまな手法でプレトタイピングは行えます。くふう次第でどのようなアイデアも検証できます。
何かアイデアを思いついた場合は、すぐに実装に移るのではなく、そのアイデアが ライトイット
か確かめてから進めるのが大事なようです。